『一の悲劇』法月綸太郎

小学一年生の男の子が誘拐されます。しかし犯人が身代金を要求したのは、別の家族でーー。


身代金を要求された家族と、我が子が誘拐された家族。


物語の語り手は身代金を要求された側の父親で、この人物が身代金の受け渡し役を引き受けます。彼には「犯人から指示を受けたから」だけでなく、自ら危険を冒してでも誘拐された子供を助けたい別の理由がありました。


自分の子供が誘拐されて、別の人間に身代金の引渡しを頼むしかない立場の人と、別の家族の子供のために、身代金の引渡しを成功させなければならない重責を負った立場の人と、想像すると息苦しくて、はやく犯人を突き止めたくて、物語の前半は浅い呼吸で読んでいたように思います。


そういう緊張感は、本格ミステリーのなせる技ですよね。楽しい。


早い段階で「犯人」に気がつく読者も多いかもしれませんが、いや、はずれたかな、と最後まで確信できず、ハラハラする内容になっております。