『メルカトルと美袋のための殺人』麻耶雄嵩


本格ミステリファンにとっては有名な探偵だそうです。

メルカトル鮎。めるかとるあゆ。

そして事件の語り手は、メルの友人である美袋三条。みなぎさんじょう。

「美袋」の読み方をなかなか覚えられなくて、文中に出てくるたびに前に戻って確認したりと苦労したけれど、パソコンで「みなぎ」と打ったら一発変換できるのには驚きました。そうですか。。。

七つの事件を扱った短編集です。
★仲間とともに訪れた別荘で、美袋は突如、ある女性を愛するのですが、その女性が殺人を犯し自らも死んでしまいます。
★ペンションに来ていた大学生5人の内、ひとりが他殺体として発見されます。その顔に雑な化粧が施されていたのはなぜか。
依頼人から「自分の命を守ってほしい」と頼まれたメルは、話を聞いてその場ですぐ断ります。しかし依頼人もまたあっさりと引き下がってしまう。わざわざ遠くから訪ねてきたのに、なぜ?
★過去に土砂崩れで百人以上の女子中学生が亡くなった際、ひとりだけ遺体が発見されなかった少女にまつわる事件。
★メルが暇つぶしに書いたミステリー小説の犯人当てに、美袋がチャレンジする作品。
★美袋が襲われ、連れ去られ、さらには殺人の容疑をかけられます。
★シベリア急行の列車内で起きた射殺事件。乗客には全員アリバイがあって。

どの事件もメルの推理は冴えわたっています。頭をかきむしったり、虫眼鏡を取り出したり、パイプの煙をくゆらせたり、深い思考のトンネルをくぐったり、ということはなく、現れて、検分して、あなたが犯人です、と言い置いて去っていく。というスタイルです。ミスもしません。

けれどかっこいいと思えないのは、彼がタキシード姿にシルクハットを被った少々場違いな格好をしているからだけではなくて、善性が欠如しているからでしょう。奇抜なキャラクター設定の一部なのだとしても、なにもご遺体にそんな狼藉働かなくても、とは思いました。作者のこだわりなのかしら。どうなんでしょ。

美袋の読み方さえ覚えられれば、移動中の車内に最適な1冊かと思います。