『怒りの葡萄』ジョン・スタインベック 訳:黒原敏行

本当にすごくいい小説でした。

怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫)

怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫)

怒りの葡萄〔新訳版〕(下) (ハヤカワepi文庫)

怒りの葡萄〔新訳版〕(下) (ハヤカワepi文庫)


1930年代の大恐慌時代のアメリカを舞台に、土地を追われた小作人一家13人が仕事を求めてトラックひとつで旅をします。西へ、西へ。


現実と貧困が自分たちを押しつぶそうとしているとき、土地や家や仲間や家族や食べ物だけでなく、わずかな希望をも根こそぎ奪い取ろうとしているとき、やはりそれらを守ることはできず失ってしまうもののほうが多いけれど、それでもわずかに残っているものの、どうにか譲り渡さずにいるものの気高さが胸に迫ります。


わたしたちの頭上には空があり、わたしたちの足元には大地がある。わたしたちはその間で生まれ、育ち、最後は土に還る。シャボン玉のように空中でプワンと生まれてパチンと消えるのではないし、星のように空の向こうでいつもキラキラ輝いているのでもない。だからこそおそらく人間は欲と傲慢さを身につけたけれど、パチンと消えるのではないから歴史を紡ぐことのでき、手の届かないところで光り続けるのではないから強さと弱さを持つことになった。


空と大地の間で生きるということは、それらを思う存分発揮することだと、この一家の物語を読んだら、そう思いました。


本当にいい小説でした。読むのと読まないのとでは、人生違っただろうなと思います。感佩。