2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧

 休筆週間

2008年12月31日〜2009年1月7日まで、お休みをいただきます。 来年もどうぞよろしくお願いします。

 奈津子さんの言い分

最後まで読んでどっと肩が重たくなりました。大空を仰いで深呼吸をしたくなりました。息苦しさが残り、泣きたいのに泣けない悲しさが胸を燻りました。 祐也との幸福な生活を手に入れても、そこに幾度となく現れ飛鳥を脅かし続けたのは、本岡家の次女奈津子で…

 不幸はナイフのようなもの

不幸はナイフのようなものだという。刃をもてば手が切れるけれど逆手に持てば利用できる、と。(11項) 孤児院で育てられてた倉折飛鳥(クラオリアスカ)は、六歳になったとき本岡という家にひきとられていきます。しかしその家で愛情を注がれることはなく、…

 仲里博士の無念を晴らしてほしい。

探偵・石神のところに、ひとりの少年がやってきます。「自殺した同級生の父親のことを調べてほしい」と。その人は自殺じゃないかもしれない。だからもし自殺じゃないならその人の無念を晴らしてほしいと。自殺した仲里博士は沖縄の大学の教授で、海底にある…

 最近の若者

「俺、絶対に彼女をあきらめられない。あきらめるくらいなら、彼女を殺して、俺も死ぬ。」探偵を生業とする主人公石神は、ストーカー被害を受けている女性から依頼を受けます。いくつかの証拠をつかみ、相手の男の説得にかかりますが、目の前の男の口から出…

 視線

この作者は自分と似ているところがある。そう感じた小説はこれが初めてじゃないかと思います。ストーリー自体が自分の経験とどこか重なるわけではないけれど、文章の所々に現れるある対象への視線が自分の視線の途中にあったり、その延長線上にあったりしま…

 孤独

とても印象深かったので記載します。 孤独な愛のために傷ついているという主人公汐見に、先輩の春日が言うセリフです。 卵の殻で自分を包んでいるようなひ弱な孤独じゃ、君、何ひとつ出来やしないぜ。(中略)僕はね、真の孤独というものは、もう何によって…

 藤木忍

えっと、作品紹介文だけ読んで「藤木忍」はてっきり女性だと思っていたのですが。。。どうやら男性のようですね。なるほど。これで紹介文だけで自ら勝手に構築していた物語の雰囲気が、だいぶ様相を異にしてきました。 ご購入はこちらから↓

 人はみな草のごとく、その光栄はみな草の花の如し。

なんと素朴なタイトルでしょう。草の花、ですよ。現代の小説のタイトルにはまず選ばれないだろうし、選ばれるべき物語も書かれないのではないかと思います。そして「草の花」はこの物語の空気感を見事に背負っています。生と死、輝きと絶望、羨望と嫉妬、意…

 猩猩

猩猩(ショウジョウ)ってなんだ??と思いながら、ずっと読んでました。辞書を引いたらオランウータンと出てきました。これから読む方、猩猩はオランウータンです。 ご購入はこちらから↓

 恐怖の喚起

推理小説の祖といえばエドガー・アラン・ポーであるとさまざまな折に触れて耳にしてきましたが、なるほど、作品を読めば一目瞭然。納得せざるを得ない技術がたしかに存在しています。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズもアガサ・クリスティーのエルキ…

 青い山脈

結局、最後まで「青い山脈」の意味がいまいち実感できませんでした。わたしが見逃していなければ、「青い山脈」自体はどこにも出てこなかったはずです。若者たちの息づいた青さ、という程度の意味合いでしょうか。うーん。それとも見逃したのかしら。。 とて…

 金谷六助のセリフ

六助が新子に言います。 今度ぼく、君を家へ遊びに連れて行くよ。そして、ぼくも君の家へ行くんだ……(182項) なぜ?と尋ねる新子への六助の答えはこうです。 「なぜって、女と男のつき合いは、双方の家庭に根拠を置かないと、不健全なものになり易いからさ…

 清潔でさわやかな水を浴びているような気持ち。

殺人事件でもなく、熱い恋愛でもなく、深い啓蒙でもなく、摩訶不思議な夢物語でもなく、ただ「ニセのラブレター」を通して始まった物語。ものすごく小さな世界の、ごく小さな出来事だけれど、ある時代の一部分を見事に切り出している。たった一通のくだらな…

 小説が書かれた時代の風景がここにある。

金谷六助のセリフ。 それあぼくたちは人間であることをほこり得るような生活をしなければならないさ。だが、富永(六助の同級生)の説によると、人間はいつの時代でも原始人の感覚から完全に抜けきるというということはできないという、つまり、文化というの…

 「正」は誰?

この学校には悪い風習が根付いていると真っ向から立ち向かう島崎先生。校長先生と教頭先生を前にしてもまったく遠慮がありません。ありきたりな言い方をすれば熱血教師ということになるでしょうか。それにしても興味深いのは島崎先生が完全な「正」に見えな…

 進歩と労力の分水嶺

女学校の教師島崎雪子は、生徒の一人寺沢新子から彼女宛てに届けられた手紙について相談を受けます。その手紙は内容を読めば、甘ったるい、幼稚なラブレターなのですが、新子はこれを自分に書いたのは同級生の誰かではないかと言います。雪子がなぜそう思う…

 神さまのお手についての物語

主人公が、子供たちの質問攻めに困っている隣りの奥さんにする話です。「神さまのお手」のことを訊かれていったいなんと答えていいものやら。。という奥さんに、自分の知っている話を聞かせます。外でぱったりと出合ったご近所のふたりが、神さまの話をしな…

 「いまのはマクベスです」

いやー、実におもしろいミステリーでした。パズルのピースはそれぞれのしかるべき場所にきちんと組み込まれている。それらが探偵の手によって抜き取られ、一枚の絵になったときの鮮やかさ。華麗なる推理とはこれぞまさしく、と言ったところでしょうか。いや…

 ドルリー・レーンの扮装

さて、いよいよ名探偵が動き出しました。ドルリー・レーン。彼が助手のクェイシーの手を借りて扮装をするシーンがわたしはとても好きです。なぜか『金田一少年の事件簿』の「蝋人形城殺人事件」を思い出します。ほの暗く、奇怪で、不気味な雰囲気が、わたし…

 市民の協力に好意的な刑事

検事のブルーノ、刑事のサム、そしてふたりが捜査の協力を依頼したドルリー・レーン。レーンはふたりから事件の詳細を聞き、まだ確証はないが犯人はわかっている、というようなことを言います。そのセリフが刑事であるサムにはおもしろくない。 本物の警察は…

 奥行きのある表現

殺人が起きて、関係者への取り調べが行われます。この事件では、事件発生時に被害者と一緒にいた人間が取り調べの主な対象となります。担当刑事のサムは関係者をひとりずつ呼んで事情を聞きますが、その対話のひとつひとつを小説中で描いていくというのは、…

 読者への公開状

冒頭に「親愛なる読者諸君」とあります。 エラリー・クイーンの『Xの悲劇』(及び、後続のシリーズ)は最初、バーナビー・ロスという別の作者の名前で発表された、と。なぬ?事情を知らないわたしは、もうここからすでにミステリーの伏線が張られているのだ…

 オレンジエードのお礼

フィリップは別荘へ来ていた婦人マダム・ダルレーと知り合い、はじめての関係を持ちます。誘惑されて、参ってしまうんですね。あっけなく。「オレンジエードを召し上がっていきなさいな」と家の中へ招かれて、そのときは一杯飲んで逃げるように帰ってくるので…