2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧

 幼馴染といえば、浅倉南と上杉達也

十五歳半のヴァンカと、十六歳半のフィリップ、ふたりの幼馴染の夏休み。 子供の頃は、ずっと仲の良かった二人なのに、青年になりかけると、次第にしっくりしなくなった。去年早くも二人は、苦い口喧嘩を、陰険ななぐり合いをしたものだった、それがこの頃で…

 悲しみというりっぱな名前

ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。その感情はあまりにも自分のことだけにかまけ、利己主義な感情であり、私はそれをほとんど恥じている。ところが、悲しみはいつも高尚…

 400ページの愛

一度は幸福なふたりの将来を夢にみたマルグリットとアルマンでしたが、娼婦というマルグリットの身分のためにアルマンの父親に反対され、結ばれることのないままマルグリットは病に冒されこの世を去ります。ふたりはとても強くお互いを愛したけれど、愛し合…

 マルグリットの墓

語り手である主人公は マルグリットの競売で書物を一冊手に入れます。『マノン・レスコー』。どうしてその書物を手に入れようとしたのかという点においては、本人にも理由が定かでないのですが、まあ、その場の成り行きとでもいいましょうか。とにかく彼はマ…

 マルグリット・ゴーティエ

物語は娼婦マルグリットの遺産が競売にかけられるシーンから始まります。語り手として登場する主人公は、それがマルグリットの遺産とは知らずに出掛けていきます。 この小説の少し不思議な感じがするのは、語り手である小説の主人公が、彼の語る物語の主人公…

 テーゼで始められる力量

どんな国の言葉でも、真剣に勉強してからでなくては話せないように、まず人間というものを十分に研究してからでなければ、小説の中の人物をつくることはできない、というのがわたしの持論である。 わたしはまだ人物をつくり出せるほどの年にはなっていないの…

 「世の中って、ねえ、人が思うほどいいものでも悪いものでもありませんね」

『女の一生』の最後の一文です。「世の中って、ねえ、人が思うほどいいものでも悪いものでもありませんね。」このセリフで370ページの物語が終わるのです。このセリフで! この一文で物語を終わらせられるというのは、驚異的じゃないかと思います。いや、言…

 夫の不実

ずいぶんとひどい話になってきています。ジャンヌの夫ジュリヤンは、妻であるジャンヌと新しい生活を始めたその日から小間使いのロザリと関係を持ち、ロザリは彼の子を産み落としてしまいます。何も知らないジャンヌはロザリの子供を私生児であったとしても…

 生きた家具

フランス文学というのは、美しいものをより美しく、醜いものをより醜く描こうとします。そのために修辞的な表現がすごく多い。彼女の肌は、なんとかのなんとかのようにきめ細やかで、その色はなんとかのなんとかのように白く透き通り、なんとかのなんとかの…

 19世紀のフランス

ある貴族の家に生まれた娘の物語。 理論家の男爵は、娘を幸福な、善良な、そして優しい女に育てたいと思って、教育の計画をすっかり立てていた。 娘は十二の年まで家におかれたが、それからは、母親は泣いてそれをいやがったけれども、聖心(サクレ・クール…

 オンリーロンリーグローリー

冒頭がすばらしくかっこいいとお伝えしたヘルマン・ヘッセ『春の嵐』ですが、(ちなみにこれ、原題は『Gertrud』(ゲルトルート)つまり女性の名前なんですね。『ゲルトルート』の邦題を『春の嵐』にしてしまう感性を訳語としてどう評価するべきなのかよくわ…

 冒頭にある終着点

冒頭の一ページが、おもいっきりかっこいい小説というのがあります。わたしにとってそれはポール・オースターの『ムーン・パレス』だったり、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』だったりするのだけど、ヘルマン・ヘッセのこの『春の嵐』も最初…