人はみな草のごとく、その光栄はみな草の花の如し。

u-book2008-12-19



なんと素朴なタイトルでしょう。草の花、ですよ。現代の小説のタイトルにはまず選ばれないだろうし、選ばれるべき物語も書かれないのではないかと思います。そして「草の花」はこの物語の空気感を見事に背負っています。生と死、輝きと絶望、羨望と嫉妬、意志と挫折。ぴったりです。


以下、文庫の作品紹介文より。


研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。

二冊のノートの作者(汐見)が、自身のノートを公開する形になっているのかと思ったらそうではなくて、作者(汐見)と同じ病室にいた別の人物が語り手の役割をすることでノートを紹介しています。小説全体からすればほとんどが「二冊のノート」の記述なのですが、前後に生前の作者(汐見)と言葉を交わした語り手の存在があることで、ノートがひとりの男のただの記録ではなく、語り手にとっての生きた記憶となり得ているように思います。ノートの部分に入る前の「冬」の項だけで、ひとつの物語ができている。いやぁ、ため息が出るくらい実に丁寧な文章です。





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