マルグリット・ゴーティエ

物語は娼婦マルグリットの遺産が競売にかけられるシーンから始まります。語り手として登場する主人公は、それがマルグリットの遺産とは知らずに出掛けていきます。
この小説の少し不思議な感じがするのは、語り手である小説の主人公が、彼の語る物語の主人公であるマルグリットと、時折道で見かけるだけの間柄だったということがひとつ挙げられます。言葉を交わしたことのないある女について、その女の生前を物語ろうというのですから、いったいどうしてそんなことになったのかと思わずにいられません。女がいくら美人だったからと言って、自分との間に特筆すべき出来事があったわけではない人間の物語を書くのは、その女の人生にはよほど興味深いことが起きたのだろうと思うのが自然です。あるいは、語り手である主人公に女の死後、何か特別なことがあったのだと推測されます。つまり、小説の語り手は物語の主人公と深い関わりがないというその最初の設定においてすでに、読者がマルグリットという女性に興味を持つような仕掛けができていることになります。この小説の書き出しもまた、読者への語りかけが実にうまい。ひとたび読み始めると、すっかり最後のいきさつまで知ってしまわないことには、何か思い出しかけたものを忘れたままにしておくのを許してしまっているような気分になります。


ところで、マルグリット・ゴーティエ ってすばらしくいい名前だと思いませんか? わたしは主人公のこの名前だけでもう、何かが語られているような気がしてきます。




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