柔らかな太刀

u-book2009-02-06



眠狂四郎、かっこいい時代劇のヒーローかと思ったら、そうでもない。「強い」というよりは「鋭い」という印象で、伝説に語り継がれる偉業を残すよりは、瞬時に咲き乱れ、散る。そういうタイプに思われます。どんなに強くてもヒーローとして映らないのは、その強さの衣を一枚とってしまえば、ただの寂しき男であることが随所に描かれているからです。とても、寂しそう。


徳川幕府(11代将軍家斉)の勢力争いに巻き込まれる形での狂四郎の活躍。もっとも「活躍」という言葉は、彼の雰囲気には似合いません。「暗躍」のほうが合いますね。その狂四郎の行く先々で、意図せず、しかし、運命的に出会う人々は、彼が影の中に潜めている彼の出生を、眩しいばかりの光で、やさしく、それでいて容赦なく照らします。それが狂四郎を戸惑わせる。


幕府の内部抗争よりなにより、狂四郎の内にあってまだ外への出口を見つけられずにいる柔らかな太刀の行方を追った作品ではないかと思います。


<'09.2.4.芳林堂書店高田馬場店にて>





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