まだまだ訓練が足りない。

u-book2009-02-12


この作品の感想を書く上で最初に言っておかなければならないと思うのですが、わたしは小学生のときから(もしかしたらそれよりも前から)どちらかと問われるのなら、完全に文系の人間であった、ということです。好き嫌いや得意不得意の問題もあるだろうけれど、興味の方向が完全に「文系」だったと言わざるを得ません。だいぶあとになってから理数の考え方にも興味を持つようになったけれど、今でも物事の捉え方は「文系」に偏っていると思います。とは言うものの、文理の明確な境界線を自分で定義できているわけでもないので、感覚的な区分に過ぎないことをどうぞお許しください。


さて、「すべてがFになる」です。意味がわからなければただ意味不明なだけの曖昧な言葉だけれど、Fの意味がわかる今となってはとてもソリッドな響きを持ちます。個人的には、少し言い過ぎかもしれないけれど、エクスタシーを感じるほどです。そしてこういう発想は理系構造の思考回路を経由しないと生まれないのではないかと文系のわたしは思うわけです。
作品全体を通しての感想を言えば、ずっと頭の中だけで物事が進んだという印象があります。それは登場人物が頭の中だけで生きているような人たちばかりだから、ということもできるかもしれないけれど、そうは言っても実際に人と会話をしたり、移動したり、悲鳴をあげたり、死体を運んだり、コーヒーを飲んだりしているわけです。にも関わらずその身体的な感覚というのは伝わってこない。事件の起きた部屋に入っていくときでさえ、わたしのところに伝わってきた緊張感というのは薄かった。だから、わたしは部屋の中に入った気がしない。部屋の中に入っていった人たちの様子を天井から覗き見るような距離があった。多少の波はあっても、基本的にはずっとその距離感で物語を読んだ、そういう印象です。そしてその距離は、わたしが理系回路を持たないために生じているのではなかろうか、と思うわけです。


まだまだ訓練が足りません。


<'09.2.8.紀伊國屋書店新宿本店にて>




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