『孤独の発明』ポール・オースター


ノリに乗っているな。というのが、わたしの本作品への見解です。しかしそれは、たとえば『ミスター・ヴァーティゴ』のような物語性に溢れた奇想天外ワンダーランドっ!という種類の「ノリ」ではまったくありません。前に向ってドビューンと進んでいける勢いのようなものもありませんし、障害を一足飛びに越えて行ける思い切りの良さもありません。山があれば山を見上げ、谷があれば谷を見下ろし、川があればその流れを眺め、クマに遭遇したら逃げまどうのではなく、諦める。そいういうノリです。


「訳者あとがき」において、柴田元幸さんがこう書いています。

世の中には書くことによって正気を保つと考える作家と、書くことによって自己のなかの狂気に触れると考える作家が存在するようだが、オースターは明らかに後者のグループに属している。


この、自己のなかの狂気が、ノリに乗っています。