『夏への扉』ロバート・A・ハインライン


SFだと聞いていたので、宇宙とかジャングルみたいな舞台設定を想像していたら、全然違いました。登場する「道具」や「出来事」はSFでも、それらが起きている舞台はわりと現実的な場所でした。間違った先入観(物語のどこかの時点で宇宙とかジャングルに飛ばされることを疑って、心の準備をしていました)のせいで逆に物語に入り込むことができませんでした。SFというジャンルに対する私的なイメージを変更しなければいけません。


でも読み終わってみれば、とても正統なサイエンス・フィクションという気がします。わたしはSFという語の一般的な定義、あるいはその語源をきちんと理解しているわけではないので、そんなことも知らずに「正統」などと言うのはおこがましいのですが、「サイエンス・フィクション」という言葉にぴったり合致する気がします。わたしの先入観が示しているようにSFと言った場合にはもう、わたしにとってはファンタジーの要素が濃いのですが、そうよね、そういえば「SF」ってもともとファンタジーと関係ないもんね。とこの作品を読んで思いました。


科学を扱っているけれど、とても人間的です。そしていい話です。タイムトラベルを扱った作品ではないけれど、こないだ読んだ『人格転移の殺人』を思い出しました。『夏への扉』と比較したとき、時代が時代だったら、『人格転移の殺人』も、相当なレベルだなあ、と思いましたよ、わたくし。


ただラストは、『夏への扉』のほうが、好きですね。