『スカイ・クロラ』森博嗣


とても人気のある作家ですよね。でもわたしは、森博嗣の作品はたぶん好きじゃないです。


ここで言う「好きじゃない」に「たぶん」がついているのは、わたしが普段「好きじゃない」という場合とは、少し違った気持ちが混ざっているからです。


スカイ・クロラ』についてだけ言えば、わたしには、著者がこの作品を「小説としての合格ライン(森博嗣の読者の半分くらいは気に入ってくれるだろうと作者が考えるライン)に乗るくらいのところを目指して適当に書いた」ようにも読めたし、「読者に見せたい独自の世界観があって、しかしそれらにあまり具体的な形状を与えず、その世界のイメージをイメージのままで捉えてもらえるように書いた」ようにも読めました。


前者であれば、そういう場合に扱うテーマとしては少し軽率な感じがするし、後者であれば、単純にここで見た世界観がわたしにとってはさほど魅力的ではなかったと言うことができます。


あと、文章のことを言うと、比喩が好きじゃないです。よくわからないし、ピンとこない。下手だと言いたいわけではなく、ただ体感的に合わないです。たとえば「(ある女の子を指して)チョコレートみたいな顔」とか。あるいは「背中にフライパンが入っているみたいに機嫌が悪そう」とか。ん?それっていったい?という感じになってしまう。わたしにとってはほとんどの比喩がそうでした。


でも不思議なことに、森博嗣という人物は、たぶん嫌いじゃないだろうな、と思えるんですよね。どんな人なのかまったく知らないのですが、彼の作品を読んで、たとえば軽薄だったり、無責任だったり、そういう皮相な感じを受けることはなくて、やはりどちらかというと知的でユーモアもあり、子供のようなあそび心(冒険心)と大人の理解とを兼ね備えた、そんな人物像を思い描くことができます。好きじゃない小説からそんなことを感じるのはとても不思議なんですけど。