『はじまりの島』柳広司


地質学者(作品中では博物学者とされています)のチャールズ・ダーウィンを主人公にした作品です。ダーウィン1831年から1836年にかけて世界一周旅行へと出掛け、後に『種の起源』を発表することになるのですが、その世界旅行の間に実は連続殺人事件に巻き込まれていた、という設定のミステリーです。


チャールズ・ダーウィンが世界一周旅行に出掛け、寄港した先の陸地や島で、様々な生物に出会い、観察し、考察し、自らに問いを投げかけ、仮定を導き、それらが『種の起源』へと向っていることを、おそらく読者は感じ取ることになる。そのプロセスの一端に触れることで、わたしはダーウィンの生きた時代と自分たちの生きる現代が、自分の一生のようにつながっている、と感じることができました。わたしにとっては、そう感じたことが、この作品を手に取ったことの最大の獲得です。


連続殺人事件のミステリー部分も十分に楽しく読んだけれど、犯人が誰かということよりも、どうやって殺人が行われたかということよりも、その解答を導くための思考方法が、地質学者としてのダーウィンの思考であり、従って、いささか大きく言ってしまえば、その解答は『種の起源』と結びついていく。そのことがこの作品の醍醐味ではないでしょうか。


とても興味深く、楽しく読みました。