『ヴェニスの商人』シェイクスピア


家庭内読書会「古典的名作を読もう」企画、第二回課題本。


ヴェニスの若き商人アントーニオーは、友人バサーニオーの借金の保証人になって、高利貸しのシャイロックから大金を借ります。しかしアントーニオーの全財産はちょうどその頃、海を渡る船の上にありました。かねてからアントーニオーを良く思っていなかったシャイロックは、もし期限までに借金を返済することができなかったら、アントーニオーの体の肉をきっちり1ポンドもらう、という約束をさせます。


この物語は、アントーニオーとシャイロックの対決。友人バサーニオーと、彼が借金をしてまで手に入れようとしたポーシャへの求婚。また、シャイロックの娘ジェシカと青年ロレンゾー(彼もまたアントーニオーの友人)との逃避行。さらにはポーシャの小間使いを務めるネリサと、やはりアントーニオーの友人グラシャーノーとの恋。借金の形に体の肉1ポンドをとられるなどというオドロしいスリルがベースにありながら、若き青年たちの友情や恋愛が瑞々しく描かれてもいる作品です。


アントーニオーの全財産を乗せた船はすべて難破したという報せが入り、いよいよアントーニオーの命が危機に陥ったとき、それを救うのがポーシャ(とネリサ)であることは誰も予想しなかったのではないかと思います。アントーニオーの借金(肉1ポンド)をめぐる公判の一場面は、ハラハラしながらも痛快です。


なのですが、わたしはいまいちこの悪徳高利貸しとして描かれているシャイロックを、極悪非道の悪人としてとらえることはできませんでした。たしかに借金の形に身体の肉をとるという発想はひどいものだとは思うけれど、約束は約束だし、そもそもアントーニオーは「バサーニオーの求婚」のために借金をするのです。わたしにはあんまり釣り合いがとれているとは思えない。しかもシャイロックとアントーニオーの会話から判断するに、アントーニオーは常日頃からシャイロックに対してひどい非難と罵倒を浴びせてきたのです。そんな人物から借りたお金で求婚なんかしなくてもいいのに、と思ってしまう。でも物語の雰囲気的には、シャイロックは絶対的な悪人として描かれているのだろうと思うので、わたしがそう思えないのは、時代背景や文化の違いなのでしょう。


ところで、アントーニオーの身体を借金の形から無事に取り戻せたのち、若き彼らの間で「誓いの指輪」をめぐる一悶着があります。わたしはこのシーンで、シェイクスピアという人は、男が犯した罪と女が犯した罪が絡まったときの妙を本当によく掴むことのできる人だったんだなあと感心するばかりでした。