『罪と罰』ドストエフスキー


大変おもしろく読みました。


世界の文学作品に登場する主人公の中でもラスコーリニコフは有名な名前ですよね。初めて読むときには、なんだか覚えにくい名前だなと思うけれど、読み終わる頃にはもう忘れられない名前になっています。だからといってわたしがラスコーリニコフ君に愛着を覚えるかといえばそういうことはなく、同情を寄せるわけでもありません。でも物語の主人公たる彼の吸引力には驚かされます。かっこよくもないし、かっこ悪いというのでもない。尊敬できるでもなく、応援できるでもない。それでも、読み終わったときにはもう、世界のどこかにラスコーリニコフがいたのだと思える。いまもどこかにいるのだと思える。そういうとびきりの主人公。


事件が起きたあとの話のほうがずっと長いので、事件そのものの印象はだんだんと薄れていくけれど、読み返してみると、その殺人シーンは、けっこう残虐で衝撃的です。そういう事件を終始引きずっていく物語だから、殺された老婆の握りしめていた手のひらの内のようにこの話は暗いし、殺人現場に偶然居合わせたが故に殺されてしまった老婆の妹の、斧にこびりついたその血のようにどろどろとしています。それなのになぜだか、いつもどこかでなにかが、それもとても小さななにかが、キラキラと光っているのを、この物語には感じることができます。


読んでいる間中、なにか光っているな、と思っていたわけではないのだけれど、読み終わってから振り返ってみると、あ、そういえばずっと、なんか光っていたな、と思うのです。


その小さな光の正体は、いろいろと考えてみたのだけれど、たぶんね、「正義」だと思う。