慟哭

u-book2007-07-23



よく出来たミステリー、と言える作品のひとつだと思います。

物語は、ふたりの主人公の視点で交互に進んでいきます。ひとりは絶望を抱えた無職の男性。ひとりは警察官キャリア組のエリート。エリート警察官の物語は連続幼女誘拐殺人事件を追うものであり、絶望を抱えた男性の物語は、ある宗教にはまっていく過程を描いたものです。最初ふたりの話はまったく別のものとして進行していきます。ふたつの物語に交差点をみるのは、絶望した男性のその絶望の原因が、幼い自分の娘が殺されたことにある、と明らかになったときでしょうか。

自分の娘をどうにかして取り戻したい、生き返らせたい、その欲望が彼を宗教に駆り立てたのです。正確には、死者を生き返らせることができるという呪術と心得に彼はしがみついたのです。そして、彼の信じた儀式を執り行うために必要なもののひとつが、娘の魂を呼び戻すための生け贄だった。


はてさて、物語はいずこへ。


貫井徳郎著『慟哭』東京創元社