東京湾景

u-book2007-07-31



メールの出会い系サイトで知り合った男女の恋愛物語。


と、一言で終わらせてしまおうと思えば終わらせてしまえるのが「恋愛」という名のストーリーですよね。
そうはいってもやはりそこは「恋愛」ですから、いろんな形があるわけで。その形を楽しめるか、興味を持てるか、共感できるかによって、恋愛小説もただの恋愛小説ではなくなる。こともある。


東京湾景』はわたしに、ある小さな教訓を与えてくれました。


まあ、ささやかで、くだらないかもしれませんが。

「男の人ってさ、どういうときに一番幸せを感じるわけ? きれい事じゃなくて、なんていうか、恋愛の絶頂感っていうのかなぁ」・・・中略・・・「たとえば、そうねぇ、もうどうにもならないっていうか、せつないっていうか、狂おしいっていうか、そういう気持ちになるときよ」


「青山さん」の質問に主人公は答えます。

「そんなの、好きな女とセックスしてるときですよ」


それを聞いた相手は「意外と単純ねぇ。」「それは、絶頂=射精ってことだから、情というよりは生理的なものだ」と。
しかし主人公はそれを否定します。

「違いますよ。」


もちろん相手は納得しません。

「どう違うのよ。」

主人公は言います。


「青山さんは見たことないから、そんな風に言うんですよ」

「わたしが何を見たことないのよ?」

「・・・抱かれてるときの女の顔を、・・・青山さん、見たことないでしょ?」



なるほどね。



自分が抱かれてるときの顔を見せる相手は、やっぱりすっごく好きな人じゃないとだめだね。

もったいない。



吉田修一著『東京湾景』新潮社>