八つ墓村

u-book2007-08-30



とある村の分限者、田治見家の主人である要蔵は、妻も子どももありながら、ある日突然鶴子という女性にはげしい恋をしました。一方的で無分別で残虐な恋です。彼は鶴子を無理矢理に拉致して、家の土蔵に閉じ込めて、暴力をもって彼女を征服しました。しかもそのままずっと鶴子を帰そうとはしませんでした。要蔵の妻も伯母も、鶴子の両親もやめてくれと頼んだが、頑として聞き入れません。鶴子は何度か要蔵の元から逃げ出しましたが、その都度要蔵が気ちがいのように暴れるので、村の人々が恐れをなして鶴子のもとへ泣きついてきました。鶴子は嫌々ながらも、要蔵のもとへ帰らなければなりませんでした。

そうしているうちに、鶴子はとうとう男の子を出産しました。しかしその後も要蔵のはげしい情欲はおさまるところがなく、しまいには子供にまでひどい暴力を振るうようになりました。鶴子はこのままでは自分も子供も殺されてしまうと思い、子供を抱えて家を抜け出しました。要蔵は鶴子の帰りを待ちましたが、彼女はいつになっても帰ってはきませんでした。そうしてついに要蔵の狂気は爆発します。

まず自分の妻を日本刀で一太刀のもとに切って捨てます。それからその日本刀と猟銃とを抱えて家を飛び出し、何の関係もない村の人々を襲ったのです。彼は一晩村じゅうを暴れまわり、結果的に三十二人の人間を殺し、自分は山へ逃げ込んで姿をくらましました。翌日、村は血みどろになっていました。あちらにもこちらにも死体が転がっていて、どの家からも負傷者のうめき声が洩れていました。



村の人たちは思います。



鶴子さえおとなしく要蔵のきげんをとっていたら、こんなことにはならなかったのに、と。



人間ってさ、どうして恨む相手を間違えるんだろうね。この村の人たちは、どうして要蔵がすべて悪いんだって思えないんだろうね。どうして何もできなかった自分たちにも責任があるって考えられないんだろうね。「鶴子さえおとなしく要蔵のきげんをとっていたら」じゃないよね。「自分たちが、村という共同体で協力して、きちんとした形で要蔵から鶴子を救っていれば」だよね。現実にそういう力を持っていなかったとしても、怖くて見てみぬをフリをしてしまうとしても、そういう弱さを認めることはできるはずだし、鶴子に優しくなれる知恵を持つこともできると思う。その知恵があれば、死んでしまった人の数は減らせなくても、これからも村で生きていく人たちの明るい未来には繋がるのにさ。そんなこともわかんないから、いつまでたっても暗いんだよ。


というわけで、暗い暗い『八つ墓村』です。


物語は鶴子が逃げ抱えてきた子供、辰弥が主人公です。二十七歳になった彼が八つ墓村に戻ってくることをきっかけに事件は始まります。


閉鎖された暗い村に一筋の光が差すまでの、血と欲にまみれた、どろっどろのお話です。どろどろ過ぎて、最後のほうはもう何を言われても、サラサラと聞き流せるようになります。




横溝正史著『八つ墓村角川書店