テロリストのパラソル

u-book2007-09-05



江戸川乱歩賞直木賞をW受賞した作品。

という売出し文句に導かれて買った本です。

事件はなんの前触れもなく、突如として起こります。新宿中央公園での大規模な爆発。その現場付近にたまたま居合わせたアル中のバーテンダー、島村。彼は、自分の指紋がついたウィスキーの瓶を現場に残してきたことに気がつきます。時効は成立していたが、彼は過去のある事件で指名手配されていた身分だったのです。警察が自分にたどり着くのは時間の問題。しかも島村のふたりの友人が、その爆発の犠牲者になっていることがわかりました。ひとりは、彼がかつて一緒に暮らしていた女性、園堂優子。もうひとりは、同じくある事件で指名手配されて海外へ逃亡していたはずの同級生、桑野。
重なりすぎている偶然。



優子の死を島村に伝えたのは、彼女の娘である塔子でした。塔子は母親の死を島村に知らせるためにやってきたのです。


内臓破裂。両足切断。けさ再手術の必要があったの。で、身体がもたなかった。

事務的な口調でそう告げた塔子の目に、しかし次の瞬間には涙の粒がふくれあがりました。


なぜ、母があんな目にあわなきゃいけないの。これがどういうことなのか、あなた、教えてくれる?

島村は答えます。


私もその理由を知りたい。



人が人を殺すのに、大きな理由なんていらないのかもしれません。ちっぽけな憎しみがあればいい。あとは時間がその憎しみを育ててくれるから。でもそのちっぽけな憎しみをプチってふみ潰したり、どっかにエイって放り投げたり、別の何かでスポッと覆い隠したりしながら、みんながんばって生きてるんですよね。誰かや何かに出会ってその憎しみを手放す機会をもらったり、あるいは、それを手放させてくれる誰かや何かを探したりしながら。でも「あの人」はそれができなかった。ずっと憎しみを見続けて、育てて、大きくさせて、その憎しみと付き合う方法まで身につけてしまった。もう踏みつけることも、放り投げることも、隠すこともできなくなってしまった。そして、テロリストになった。


テロリストは島村に言います。


最後に君に会えてよかった。

うん、そうなのかもしれない。でもわたしはもっと前に、あなたと島村さんに会ってほしかった。そうすれば、あなたの手にしていた憎しみが、そのときどんなに大きくなっていたとしても、あなたはそれを捨てることができたんじゃないかって。少なくとも、それを島村さんの目の前に広げてみせることはできたんじゃないかって。そんな気がします。




藤原伊織著『テロリストのパラソル』講談社