太陽の塔

u-book2007-10-01


「諸君。」

さあ、みんな耳をかたむけて。


「先日、元田中でじつに不幸な出来事があった。」

なになに?


「平和なコンビニに白昼堂々クリスマスケーキが押し入り、共にクリスマスケーキを分け合う相手とていない、清く正しく生きる学生たちが心に深い傷を負ったのである。」

。。。。


「このような暴虐を看過することが出来ようか。否、断じて否である。昨今、世の中にはクリスマスという悪霊がはびこっている。日本人がクリスマスを祝うという不条理には、この際目をつぶろう。子供たちに夢を与えるのも結構だ、(中略)しかし昨今の、クリスマスと恋愛礼賛主義の悪しき習合まで、許してやる筋合いはない。高らかに幸せを謳歌することが、どれだけ暴力的なことであるか。京都の冬を一段と冷たくし、多くの人間に無意味な苦しみを与える、この厚顔無恥の大騒ぎ。(中略)キリストの誕生日が過ぎるまで、我々は街を自由に歩くことも許されぬまま、ひどい不自由を余儀なくされてきた。しかし、ここにはっきりと言いたい。聞きたくもない幸せの謳歌を聞かねばならぬ義理はないのだと。世間から疎外されているという不合理な劣等感を味わいながら、下宿で鍋を囲んで鬱々としていなければならない義理もない、人並みに学生生活を送っていないだのクリスマスを共に過ごす恋人もいないだのと無益な煩悶を抱えねばならない義理もないのだと。」

うんぬんかんぬん。。



物語はずっとこんな調子で続きます。このテンションについていける方、どうぞ読んでみてください。わたしは何度か挫けそうになりましたが、なんとか完走しました。最初は鬱陶しかったけど、がんばってついていくと、彼らの言動もだんだんと微笑ましくなります。

ちなみにわたしが好きなシーンは、主人公が恋敵である「遠藤氏」にある物をプレゼント(しかも、赤い紙袋に緑色のリボン、おまけにメッセージカードつき!)して、「遠藤氏」もまた、そのお返しに主人公にある物をプレゼント(彼の方は緑色の袋に赤いリボン、もちろんメッセージカードつき!)するシーンです。そのプレゼントのおかげで、主人公は一晩自分の部屋で寝られなくなります。彼はやむを得ず友人である「飾磨」宅に泊まるのですが、事情を聞いた飾磨は主人公の悲劇など意に介さずたっぷり三十分笑い転げました。三十分は長いけど、わたしも相当笑いました。ただし、笑えない人も数多くいるであろうとは思うので、その旨予め伝えておきますね。


あーおかしい。




森見登美彦著『太陽の塔』新潮社>