サウスバウンド

u-book2007-10-02



父親が昔、左翼の活動家で、今でも国家に楯突いていて、あるときは国民年金を払わないがために社会保険庁の人と言い争いになり、またあるときは小学校の修学旅行の費用が不当に高いのは学校と旅行会社が癒着しているせいだと抗議に押しかけ、またあるときは家の玄関先で警察官を投げ飛ばし公務執行妨害で現行犯逮捕。弱り果てた大家さんから突然の退去通告――といった調子なので、そのたびに胃に穴があきそうなほどの不安を抱えるハメになっている息子の二郎君とその家族「上原家」の物語です。

自分も元活動家だったという優しい母・さくら。自分は父親の子ではないという二十一歳の長女・洋子。小さな瞳で家族を見つめている小学四年生の桃子。その大きな体格と、近所の猫が逃げ出すほどのでかい声と、国家嫌いの不屈の精神で相手を圧倒する父・一郎。その父と家族と社会とのつながりや関係を、不安な目で見ながら学んでいく小学六年生の主人公・二郎。

上巻と下巻にわかれていて、上巻では東京・中野にいるのですが、家を追い出されたため、下巻では沖縄まで飛んでしまいます。沖縄の離島、西表島。その西表島での生活も読みどころではないかと思います。ああ、そうか。こういう生活もあるんだよなぁ。と思います。都会で生まれて、都会で暮らしていると、別の暮らし方って普段はなかなか想像できないから。ここでの生活になるとなぜか上原家の人間もより生き生きとしてくるので、読んでるこっちも引っ張られます。


二郎。前にも言ったが、おとうさんを見習うな。おとうさんは少し極端だからな。けれど卑怯な大人にだけはなるな。立場で生きるような大人にはなるな。

これはちがうと思ったらとことん戦え。負けてもいいから戦え。人とちがっていてもいい。孤独を恐れるな。理解者は必ずいる。

なんていうか、わたしはこのセリフに全身で賛成することはできないんだけど、だけど、このセリフが言えるということは、とてもすごいことだと思うんです。



言える人になりたいねぇ。そしたら、そう言える人にも出会えるかな。




奥田英朗著『サウスバウンド』角川書店