西の魔女が死んだ

u-book2007-10-04


「わたしはもう学校へは行かない。あそこはわたしに苦痛を与える場でしかないの」


中学生になってまだひと月も経っていませんでしたが、まいは学校に行くことを考えるだけで、息が詰まりそうになっていました。娘にそう告げられた「おかあさん」は、まいをしばらく田舎の「おばあちゃん」のところにあずけることにします。そして始まったまいとおばあちゃんの新しい生活。裏山で野いちごを摘み、鶏小屋から毎朝採ってくる新鮮な卵で朝ごはんを作り、たらいの中でシーツを足踏みして洗い、庭の植物を育て、丘を通って散歩する。


まいは、新しいクラスで「うまく」友達をつくることができませんでした。「うまく」することが、何となくあさましく卑しく思えてきたからです。そして孤立してしまった。


わたし自身のことを少し書きます。わたしも昔は、クラスの中ではどちらかというと「孤立」した子でした。何かの行事やイベントで何人かの「グループ」をつくるというとき、いつもどこにも入れてもらえなくて、ひとりだけ余る生徒でした。クラスに必ずひとりはいるでしょ、そういう子。それがわたしでした。わたしはどのグループでもよかったし、自分だけが余ってる状況についても特に困ってはいなかったんだけど、「かわいそうだから、誰かいれてあげて」という雰囲気はたまらなく嫌でした。先生も他の生徒もみんなそう思ってるんです。「かわいそうだから、誰かいれてあげなよ」って。みんなで目配せし合って、でも荷物が自分にふりかかりそうになると目をそらすんです。あの無駄な時間。いいよ、わたしはひとりでやるから。って思うんだけど、それはダメなんですよね。学校って。何をするにも「ひとり」というのは認めてくれない。その発想は露ほどもない。実にめんどくさい。誰もわたしのことを受け入れたがっていないし、わたしもひとりでいいと思っているんだから、利害は一致しているはずなんですけど。



そんなことを思い出しました。



あと、ジャムね。まいとおばあちゃんが一緒に台所で、ジャムを作るシーンがあるんです。自分たちで摘んできた野いちごでね。わたしのお母さんもよく台所でジャムを作ってました。りんごか、いちごか、マーマレード。もちろん果物は市販のものだったと思いますが。すごく大きなお鍋の中でどろどろしたものがマグマみたいに泡を立てながらグツグツと煮立って、甘い香りが台所いっぱいに広がって。エプロンをかけて、木ベラでていねいにジャムを濾しているお母さんの後姿が、なぜかとても強く印象に残っています。



うーん、お母さんのジャムが食べたくなってきた。




梨木香歩著『西の魔女が死んだ』新潮社>