風に桜の舞う道で

u-book2007-10-29



十年ぶりの再会。

同じ寮で暮らし、夢や目標を語りあって、酒やタバコの味をおぼえ、くだらない悪ふざけに熱中して、時に一体感を発揮し、そして、それぞれの将来にそれぞれの想いを馳せる。

浪人生という時代。

同級生でもなく、幼馴染でもなく、親友ともまた少し違う。

ずっと友達であり続けたいという思いより、相手の未来が輝いていてほしいと願う。



物語は、十年ぶりに再会する「彼ら」と浪人時代の「彼ら」を交互に語っています。そうすることで十年後から見た浪人時代の彼らの姿を、より鮮やかに浮かび上がらせています。わたしがひっかかったのは、たぶんその逆ではないのだろうなということ。今の彼らを描きたくて十年前の彼らを利用しているのではなくて、十年前の彼らを描きたくて、今の彼らを動かしている。十年前の彼らがあって、今の彼らがある。だからこそあの時間は貴重だった。そういう小説なのではないかと思います。

わたしにも浪人時代がありました。だからこそ読もうかなという気になったのですが。でも、ピンとこなかった。読み進めていくうちに、だんだんとイライラしてきます。話がつまらないとか、文章が読みにくいといった理由ではもちろんなくて、むしろいい話だなと思うし、文章もいたって読みやすいです。問題はわたしの側にあります。そもそもわたしには「今はもう過ぎ去ってしまったけれど、輝いていた、今の自分にとってかけがえのない時間」を振り返ったり、懐かしむ、ということができないのです。できるのかもしれないけれど、好きじゃないのです。その傾向には前から気がついてはいましたが、この小説を読んで改めて認識させられました。わたしにとっても浪人生という経験はかけがえのない貴重な時間です。でもあの頃に想いを巡らせてもわたしの心に花は咲きません。浪人時代に限らず、過去のどの時点をとってみても基本的には同じです。過去の一部を切り取って未来に持ちこんだりせずに、すべての過去の延長線上に現在のわたしを置いて、いつも未来について語りたいと思うのです。


あの頃、励ましあって一年間を過ごした予備校の友達。今でも夢や目標を別の誰かと語っていてくれたらいいな。





竹内真著『風に桜の舞う道で』新潮社>