行きずりの街

u-book2007-11-29



郷里で塾講師をしている主人公が、失踪した教え子ゆかりを捜しに上京してくるところから物語は始まります。

主人公の波多野は元高校の教師だったのですが、そのとき生徒だった雅子との結婚をスキャンダルに学園を追放され、結婚生活も破綻に追い込まれてしまい、十二年前に東京を離れていました。その彼にとって東京は言わば、忘れたい過去と忘れられない過去が同居している街であり、自分の一生を賭けた恋愛が今なお息づく街でもあるのです。


その街に彼は戻ってきました。


失踪した教え子を捜すうちに、波多野は自分を追放した学園が、ゆかりの失踪と関係しているという事実につきあたります。十二年前に自分を貶めた学園の裏で起きている事件。醜悪で矮小な人間と、そんな人間の力に頼るしかない組織の弱さ。その犠牲になった波多野と雅子の恋愛。


ミステリーの位置づけをされていますが、どうも恋愛小説としての色が濃いです。解説では北上次郎が次のように言っています。

ミステリーでありながら同時に、『行きずりの街』が一級の恋愛小説であることも否定できない。


「一級」というくらいに北上次郎はこの作品の恋愛小説としての側面を賞賛していますが、わたしにはどうも最後まで違和感が抜けませんでした。ミステリーとして話を追っていくと、途中で純恋愛小説に変わってしまう。恋愛小説なのだと感情移入していると、次は途端に「真相はいかに」というような話になってる。学園の裏に潜む事件と失踪した教え子の行方。十二年ぶりの再会に揺れる波多野と雅子ふたりの心、かき乱される想い。

どちらも興味を持って読み進められるけれど、なんとなく全体としての焦点を合わせられないままに終わってしまいました。


ところで、気にしなければどうでもいいことですが、別れた妻のこと、追い出された学園のこと、その学園で自分を貶めた人間たちのこと、それらを十二年間ひきずっているというのは、けっこう執念深い話ですよね。





志水辰夫著『行きずりの街』新潮社>