雨恋

u-book2008-03-21



幽霊と僕のささやかな恋の話。


長期出張で家を留守にする叔母に、飼い猫の世話を頼まれた沼野渉は、ひとりで叔母の家に住むことになりました。
その家には幽霊が居ました。名前は小田切千波。


彼女は雨の日になると必ず自分が死んだその場所、つまり沼野渉が留守番を頼まれた叔母のマンションの一室に現れます。どうして雨の日なのかは彼女にもわかりません。死んだのが雨の日だったからなのかもしれない、と彼女は言います。理由はともかく、彼女は雨が降ると嫌でもここへ来るし、降らなければ来たいと思っても来ることができません。


千波には知りたいことがあります。自分が死んだ真相について、です。
彼女はその日、死のうとしていました。つまりは自殺です。青酸化合物まで入手して準備万端、あとはこれを飲むだけというところまでいきました。でも、彼女は思いとどまったんです。やっぱりやめた。ところがその場に侵入した何者かが、彼女が飲むのをやめたその毒物を、彼女に飲ませた。


彼女はそれが誰だかわからないままに死んでしまいました。だから自分の死に納得ができていません。本当のことを知りたい。誰が自分に死んでほしいと思っていたのか。


事情を聞いた沼野渉は、彼女に協力を申し出ます。真相を突き止めるために僕にできることをしよう、と。





雨が降るたびに僕は彼女と言葉を重ね、ひとつひとつ疑問を解決し、千波という女性も明らかになっていきます。
雨が降るたびに、僕は千波に近づいていきます。



そして、



いつしか雨はやみ、流れて消えていく。



それでも恋は僕の手の中にたしかにある。





松尾由美著『雨恋』新潮社>