ヴェネツィアの悪魔

u-book2008-03-25



イギリスの大学で印刷業を研究しているダニエル・フォースターは、自分が調査していたヴェネチアの元出版業社の家に資料整理のアルバイトとして雇われることになります。その家の主人のスカッキと恋人のポール(ふたりは同性愛者)、それから二人のよき友人であり、相談相手であり、保護者であり、娘でもある使用人のラウラ。三人から温かい歓迎を受けて、彼は夢にまでみたヴェネチアでの暮らしを始めます。古い書庫、心躍らせる印刷物、不思議な信頼関係を結んでいるスカッキ家の人々。

はじめての土地、憧れの研究、新しい家族。

そこで書庫を片付ける仕事をする日々のうちに、彼とラウラは、ひみつの扉に隠されたある楽譜を見つけます。作曲家直筆だが匿名と書かれたヴァイオリン・コンチェルトの総譜。ヴィヴァルディの曲に似ているけれど、ヴィヴァルディの筆跡とは明らかに違う。しかし、優れた作品であることは間違いない。

この曲を世に売り出し多額の儲けを出すために、ダニエルはこの作者不詳の作品を自分が作曲したものであると偽って発表することになります。思いがけない謎と策略に巻き込まれいてくダニエル。
殺人が起き、金が動き、ヴァイオリンは美しい音色を奏で、謎は深まる。


殺人犯は誰か、誰の陰謀なのか、楽譜は誰のものなのか。


物語はその楽譜が書かれた16世紀の時代と、ダニエルのいる現代とを交互に描いて進みます。読者であるわたしたちは、ダニエルが手にした「隠された楽譜」の真相を、ダニエルの周りで起きる様々な事件とともに追っていくことになります。
そういったミステリーを軸にはしているけれど、どこか幻想的で地に足のつかない雰囲気のある小説です。現実感が抜け落ちていて、まるで小説の中でやっている舞台劇を客席から見ているような感覚があります。だから作品を通して育っていくダニエル君の恋も、どこか芝居じみて感じられ、読んでいて心が揺さぶられることはありませんでした。


16世紀の側のストーリーだけを追って、もう一度読んでみたいです。





<デヴィッド・ヒューソン著『ヴェネツィアの悪魔』山本やよいランダムハウス講談社