69 sixty nine

u-book2008-03-26



1969年。今までの三十二年間の人生の中で三番目におもしろかった年。17歳。


本当におもしろかったんだろうなと思います。読んでるわたしたちが楽しめるかどうかということよりも、とにかく文章が楽しそうなのです。勢いがあって、欲望があって、怠慢があって、若さゆえの愚かさがあって、輝きがある。


17歳のとき、わたしは受験勉強をしていました。もっと正確に言うなら、受験勉強をするための勉強にとりかかったところでした。それまで大学なんて行く気もなかった。ひとりの先生に出会って、すっかり自分の人生の方向を変えられてしまった。そういう年です。楽しくなんかなかったし、学校は退屈だったし、アルバイト先でくだらないおしゃべりをして、夢だけみてて、計画はなくて、世界は自分のために回ってると思ってた。みんな自分の好きなことをしてると思ってた。無知であまりに未熟な17歳だった。


先生はみんな、教えることが好きで、教えてる科目が好きで、生徒が好きで、だから先生をやっているんだと思ってた。教師なんてたいしてやりたいわけでもないけど、大学で教職の免許を取ったし、公務員だから給料も安定してるし、他にどうしてもやりたい職業もないから、教師でいいか。と思って教師をやってる人がいるかもしれないという想像力はまったくなかった。わたしにとって先生は先生だった。わたしに勉強を教えてくれる人、だった。どうしようもなくくだらなかったり、授業がつまらなかったり、言ってることがよくわからなかったり、すぐ怒ったり、いつも偉そうにしている先生はもちろん好きにはなれなかったし、ときにはものすごく嫌悪もしたけれど、でも先生は先生という職業を好きでやっているのだと思ってた。疑ったこともなかった。いま思うと不思議なのだけど。


17歳のわたしが、教師という人たちについてもっと違った意見を持てていたら、別の角度で見つめることができていたら、17歳のわたしはもっと周りの物事に対して積極的になれたのではないかという気がします。もちろん想像上の希望的観測に過ぎないのだけど。



17歳。無茶で、無謀で、危険だけど心の底から笑えることをしておきたかったな。





村上龍著『69 sixty nine文藝春秋