きみのためにできること

u-book2008-04-07



こいつ、ばかだな。と思う。



テレビ番組製作の音声を担当する高瀬俊太郎には、5年付き合っている幼なじみの彼女がいます。名前はピノコ。本名は日奈子だけど、顔が手塚治虫の『ブラックジャック』のピノコに似ているので、ずっとそのあだ名で呼んでいます。俊太郎の夢を応援してくれる大事な大事な彼女です。

ところがある番組のロケで、俊太郎はそこで知り合った女優の鏡耀子と親しい関係になります。仕事でピノコとなかなか会う機会をもてない彼は、メールのやりとりをまめに続けることでお互いの心を通い合わせていますが、目の前に現れた鏡耀子という存在にも急速に魅かれていきます。鏡耀子自身もまた、俊太郎に誘いかけます。

そしてある日、俊太郎は鏡耀子に送るはずのメールを、誤ってピノコに送ってしまうのです。「僕はたしかにピノコを必要としているけれど、同時にあなたも必要としているのです。」



ばかですね。そのうえに最低ですね。わたしが彼女だったら(こんなこと言う人の彼女になんてなっていたら、それだけで人生の汚点ですが)、何も言わず、何も聞かず、無言で去ります。ジ・エンド。次の日の空はさぞや清々しく晴れ渡っていることでしょう。




でもピノコちゃんは違うんですよね。もちろん傷つくし、怒りもするけれど、相手の言い訳を聞く耳は持っている。こういう女の子が男の子に大事にされ、結果的にはきちんと幸せになっていく。見習いたいものです。無理だけど。





村山由佳著『きみのためにできること』集英社