白夜を旅する人々

u-book2008-07-13




大学の授業での参考図書として購入した小説です。

大学の先生がオススメする本なんてどうせつまんないんだろうなと思っていましたが、これはよかった。教えてもらってなかったら、きっと自分の力では探り当てることなく終わっていた本だと思うので、めぐり合えてよかったと思います。

いい話です。とても現実的なのに、文章から醸し出されている絵がどこもかしこも幻想的な空気をまとっています。寒い国を舞台にしているからでしょうか。時代設定が昭和の始めだからでしょうか。登場人物が過酷な運命を背負っているからでしょうか。もちろんそのすべてが要因として当てはまるのだと思いますが、これらの相互作用による化学反応ともいうべき効果は絶大です。きれいだなぁ、と感心するばかりです。

ある運命を背負って生まれた六人兄妹の物語です。
物語といっても六人兄妹は著者自身の兄妹をモデルにしているそうで、ノンフィクションとしての色合いも濃いようです。
清吾、るい、章次、れん、ゆう、羊吉。
この兄妹のうち、るいとゆうはある疾患をもってこの世に生まれ落ちます。
先天性色素欠乏症。
ふたりは肌の色が透けるように白く、髪の色も、目の色も、睫の色も白く、そのため視力もとても弱い。
そうした運命を背負って生まれたふたりと、そのふたりと同じ血を分けた優しい兄弟たち。
自らの血と戦いながら、寄り添いながら、それでも最後にはのみこまれてしまう。
危険を感じながらも、どうしたらいいかわからない周囲の大人たち。
手を差し伸べられても、差し伸べられた手をどう握っていいかわからない子供たち。
つかもうとした手が、もうそこにはなかったとき、居場所は自分の体の中にしか見つけられない。
その体を畏怖しているから、結局、彼らには居場所がない。

親のことを想い、自分以外の兄弟たちのことを想い、彼らはそれぞれの選択をして生きる道を選んでいく。



著者の兄妹をモデルにしている以上、もしこれがルポルタージュだとしたら(もしくは読者がそうとらえるならば)、これはどこまでも暗く、厳しく、辛い、現実の提示だということになります。でもこうして小説として描かれた途端に物語は美しくなる。これが小説の持つ力であり、現実に対する作者の勝利なのではないかと思います。