だりや荘


両親をなくした田舎で一人暮らしをしている姉の椿(つばき)のもとへ、夫とともに東京から引っ越してきた妹の杏(あんず)。両親が死んでから休業していたペンション「だりや荘」を三人で再開します。

三人の共同生活。


小さな頃から、この世から少しずつ消えていこうとしているような雰囲気のある姉の椿。不妊症の杏。指圧師のやさしい夫、迅人(はやと)。
椿は迅人と不倫をしています。杏はそのことを知っていて、気づかないフリをしています。姉のことも夫のことも恨んでいません。自分が気づいていることを、ふたりに知られてはいけないと、三人のバランスを必死に保とうとしています。椿と迅人は、杏に気づかれているとは露ほどにも思っていません。杏と迅人が東京にいたときから、椿と迅人は関係していました。杏に気づかれないように、ふたりは東京で逢引をしていました。でも杏は気づきました。気づいていて、わざわざ姉のいる田舎へ迅人とともに引っ越してきたのです。
この三人の悲惨なところは、三人にとって、お互いは、それぞれに大切な存在だということです。誰も、誰かのことを恨んではいません。それぞれにとって他のふたりは、ふたりとも必要な存在なのです。ふたりとも失わないようにするためにたどりついた関係が、いまここにあるのです。

というのは、やっぱり表の関係でしかない。そういう表の関係を作ろうとしてきたけれど、そして実際作ってきたかに思えたけれど、無理なんだよね。どうしても、さ。責める気持ちがないわけがない。罪の意識がないわけがない。欲張りにならないわけがない。

田舎の小さなペンションで、静かに進行していくそれぞれの裏切り。幸せになれる方法がすぐ近くにあるのに、それを手にできないのはなんでなんだろうね。


ちなみに、わたしは個人的に夫の迅人が、とても嫌いです。