読者への公開状

冒頭に「親愛なる読者諸君」とあります。
エラリー・クイーンの『Xの悲劇』(及び、後続のシリーズ)は最初、バーナビー・ロスという別の作者の名前で発表された、と。

なぬ?

事情を知らないわたしは、もうここからすでにミステリーの伏線が張られているのだろうかと疑うことになります。調べてみれば、いえ、これは話の本筋とは関係のない、読者への「本物の」公開状だということがわかりました。エラリー・クイーンという人(たち)は、この「悲劇」もののシリーズ四部作をバーナビー・ロスという別の名前で発表し、この公開状によれば約9年間、読者を騙し続けたようです。

ミステリーというのは、犯人が気になってしかたがない、とか、トリックが気になって仕方がない、とか、動機が気になってしかたがない、とか、探偵のセリフやスタイルがかっこよくてしかたがない、など読者にとってそれぞれの魅力が存在するものだと思いますが、この人の作品はまたなんとも。。。目が離せない。事実や状況のすべてが読者の手のひらの上に「ほらっ」と差し出されている。ああ、これぞミステリーの真髄。とわたしは思うわけです。作者しか知らない事実が隠されたまま進行するミステリーというのがあるけれど、あれは、読者の「想像」を促しはしても「推理」はさせてくれない。でもこの小説には「想像」は入り込む余地がない。事実はすべて公開されているから。そう、彼らは小説を挑戦状にして、読者に推理を挑んでいる。

この「Xの悲劇」においても、後続の「悲劇」ものと同様、読者は解決に到達する以前に、あらかじめ一切の手がかりをあたえられるであろう。


と彼らが言うように。




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