奥行きのある表現

殺人が起きて、関係者への取り調べが行われます。この事件では、事件発生時に被害者と一緒にいた人間が取り調べの主な対象となります。担当刑事のサムは関係者をひとりずつ呼んで事情を聞きますが、その対話のひとつひとつを小説中で描いていくというのは、アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』を思い出させます(『Xの悲劇』よりもずっと詳細にわたって描かれています)。ただ『Xの悲劇』のほうが『オリエント急行殺人事件』よりも発表年が早いようなので、わたしの読書暦は逆の経過をたどっていることになります。ふたつの作品の関連についてはわたし自身はまったく無知ですので、どちらかがどちらかの作品にヒントを得て、あるいは影響を受けているというようなことは言えません。単に『オリエント急行殺人事件』で探偵ポアロが関係者のひとりひとりから話しを聞き、その対話から推理を構築させていくという方法はとても印象深かったのでここで思い出した次第です。

それにしても、サム警部。かなり強引で手厳しい方です。とくに人物評価についての目は刑事としてだけでなく、人間としての辛辣さを合わせもっています。
たとえばある女性をさして

大柄な、肉づきのよいブルーネットで、美人ではあるが何となく安手な、奥行きのない女である。

とかね。奥行きのない女って。。。なかなか深淵な表現ではあります。




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