@エピローグ

u-book2009-01-30


読み終わりました。この作品はurt13さんから「本格ミステリに対して新鮮な期待があるうちに楽しむべき作品」と紹介されて手にした、わたしにとっては最初の綾辻行人作品になりました。



まず、物足りない、というのが全体を通してのわたしの印象。ひとつ前の記事に登場人物の顔が見えてこないと書きましたが、それは物語が進むに従って徐々に明確にはなってくるものの、やはり最後まで、どこかしら「記号」の域を出ませんでした。特に十角館の七人は、殺されるためだけに用意された駒としての姿しか見えてこなかった。物語中一番「顔」が見えたのは、十角館には行かなかった江南孝明(カワミナミタカアキ)だったように思います。個人的には十角館で「今」起きている(起きようとしている)事件よりも、「過去」に起きた事件のほうに興味を誘われました。

登場人物の顔が見えてこない、というのは、ミステリーにおいてはさほど重要ではないかもしれません。とりわけ被害者役のキャラクターというのは、そもそも殺されるために用意されているわけですから、名前とある程度の特徴と人間関係だけわかっていれば(たとえば、名前:エラリイ、特徴:どうやらリーダー格らしい、人間関係:ミステリ研究会の一員)、支障なく、あるいは大いに作品を楽しめる場合もあると思います。そしてその場合には当然、その作品に他の魅力があるはずで、それがトリックだったり、犯人の動機だったり、探偵役の推理だったりすると思うのですが、この作品にはそれらのいずれをとっても物足りなさを感じてしまいました。トリックはあるといってもアリバイ工作だけのように思うし、犯人の動機に同情を感じるには情報が少なすぎるし、探偵役もいるようでいない。推理を読者に任せるとしてもやはり情報が少ないとわたしは感じました。

だからといってつまらないかというと、そういうわけでもない。興味を持って読み進められるんだけど、やはり物足りない、とそう感じるのです。

あれこれと考えましたが、結果、この作品に対するわたしなりの結論は、作者は自分の『そして誰もいなくなった』が書きたかったのではないか、ということです。アガサ・クリスティではなく、綾辻行人の「誰もいなくなる」ストーリーを書きたかった。とにかくそれを書きたかった。だからトリックの出来ばえよりも、犯人の動機よりも、探偵役の見事な頭脳よりも、島からきれいさっぱり全員がいなくなることが大事だったのではないか、と読んでいてそんなふうに感じました。



これがデビュー作ということなので、他の<館シリーズ>も読んでみたいと思います。

<'09.1.25.あゆみBooks早稲田店にて>





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