パレットの上で混ざる絵の具のような。

u-book2009-02-19



こういう小説があるのだな、という静かな感動。それはとても小さく、大きな衝撃として訪れたわけではないけれど、たしかに芽生えた感動。仕事で上司に怒鳴られたり、株を運用したりというような人生の具体的な場面と、星や山や海や微粒子について物語るような抽象的な場面とが、どちらがどちらに反発するでもなく、パレットの上で絵の具が混ざるようにお互いを染めています。決してきれいな色にばかり染まるわけじゃない。濁ってしまう色同士もある。でもそれでいいのだという人生との距離感。


冒頭だけご紹介。

この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。(9-10項)

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