<ドストエフスキー月間>『貧しき人びと』vol.3

u-book2009-04-30



ここにて、今月の成果は『カラ兄』と『貧しき人びと』の二作品という結果になりました。いろんなものを頭の中にぎゅっと詰め込みながら読んだので、パンパンな上に大混雑しています。記憶したものの通り道をうまく作ってあげることができません。でもすごく楽しかったです。


はてな日記内で『貧しき人びと』を読んで一番気に入った一文に「なにもかもみんな少しどうかしたようですね(235頁)」というジェーヴシキンのセリフ(手紙)を挙げている方がいらっしゃいましたが、わたしもその箇所にきてなるほどと思いました。この一文から受け取るわたしたち読者の感じ方というのは、それはもちろん様々にあるとは思うけれど、ここまで書き連ねられてきたこと、要するに、ふたりが積み重ねてきた互いへの愛情のあれこれは、ふたりを取り巻く環境(それは「貧しさ」といって差し支えないと思います。)にはやはり抗いきれず押し曲げられてしまったことを、この一文がすべてを内包する形で表しているように思います。貧しさ故に「なにもかもみんな少しどうかしてしまった」のです。


彼らほどの貧しさを経験していない人間が、貧しさについて何か言うのはおこがましくも感じられますが、わたし自身、自分が最も貧乏な生活をしていた時期に「貧しさの罪」を一生忘れることのない実感として経験しました。貧しいということは、基本的に悪です。体も貧しくするし、心も貧しくします。貧しくても貫ける意志や愛情はもちろん立派なものには違いないけれど、それは裕福であっても貫ける意志や愛情と等価だというのが、今のわたしの持論です。どんなに貧しくても貫いた愛情のほうが、裕福の上に貫いた愛情よりも価値があるという考え方は、少なくとも自分の内では否定したいと思っています。


作品中わたしが一番好きなシーンは、vol.2で紹介した青年ポクロフスキーが息を引き取る場面です。大切な人が最後の瞬間に伝えたいことを、もし汲み取ることができなかったらと思うと、わたしはもう今から泣いてしまいそうです。




5月は<伊坂幸太郎月間>です。




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