<伊坂幸太郎月間>『オーデュボンの祈り』vol.4

u-book2009-05-05



読み終わりました。物語を簡単にご紹介。


コンビニ強盗をして警察から逃げてきた主人公の伊藤は、見たことも聞いたこともない場所「荻島」にやってきます。その島には未来のみえるカカシ「優午」がいます。しゃべるカカシです。島で何か起きれば、優午がすべて教えてくれます。だから島のみんなは彼の声に耳を傾けます。しかし彼は、これから起きる未来のことについてはしゃべりません。その優午が殺される(田圃から抜かれてバラバラにされる)ことから、物語の謎が始まります。なぜ優午は殺されたのか。未来のみえる優午は、自分が殺されることがわからなかったのか。もしわかっていたならなぜ言わなかったのか。そして優午を殺したのは誰なのか。そういう謎です。


主人公は島でいろいろな人物に会います。島の案内人となる「日比野」、足の悪い「田中」、太った「ウサギ」、郵便配達夫の「草薙」、その妻の「百合」、嘘しかつかない画家「園山」、地面に寝転がっている少女「若葉」、伊藤をこの島に連れてきた「轟」、島のルールである「桜」etc... 
『オーデュボンの祈り』は彼らの交響曲のような作品だなというのがわたしの感想です。まったく違う特徴を持った彼らが、まったく違う旋律を奏でている。自らが主旋律になったり、副旋律になったり、重低音になったりする。ときには単旋律で主人公となり、あるときにはすっかり身を隠す。そしてそのすべてが最後に訪れるひとつのハーモニーへと向っていく。


そのハーモニーの聞え方が読む人それぞれによって違うのだろうなと思うのですが、わたしが感じたのは、そのハーモニーはやはり未完成だということです。偉大な作曲家たちが残した楽譜のように「完璧」にはならない。人間たちのすることはいつも「不完全」で「未熟」なのだなと。自分が奏でられない音や旋律を、別の誰かに頼って弾いてもらっても、どうしたって補えないものが必ず生まれてしまうのだと。だからこそ「祈り」が必要なのだと。この物語のハーモニーは、わたしにはそういう音に聴こえました。