<夏目漱石月間>『三四郎』vol.4


三四郎が別段の用事もなく、広田先生のところを訪ねた場面です。


三四郎は近頃女に囚われた。恋人に囚われたのなら、却って面白いが、惚れられているんだか、馬鹿にされているんだか、怖がって可いんだか、蔑んで可いんだか、廃すべきだか、続けべきだか訳のわからない囚われ方である。三四郎は忌々しくなった。そう云う時は広田さんに限る。三十分ほど先生と相対していると心持が悠揚になる。女の一人や二人どうなっても構わないと想う。実を云うと、三四郎が今夜出掛けて来たのは七分方この意味である。(161項)


自分の心が異性に囚われているときに、相対しているだけで気持ちが落ち着く相手。


自分の記憶を掘り返してみると、わたしの過去にそういう人はいなかったなと思います。どう記憶を掘り返してみても、恋をしてしまっているときは、恋をしている相手のことしか考えていない、頭の悪い自分しか思い出せません。別の誰かに会って心を落ち着けようなんて選択肢さえ思いつかなかった。無我夢中。


恋をしても頭のいい三四郎がとても羨ましいです。




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