『スイス時計の謎』有栖川有栖


有名な現代ミステリー作家だけれど、わたしが知っていたのは名前だけ。作品は初めて読みました。日本のエラリー・クイーンと呼ばれるとか呼ばれないとか。


有栖川有栖が日本のエラリー・クイーンと呼ばれるということに対しては、うん、なるほどな、と思わなくはないです。トリックの思いつきかたや見せ方がたしかに似ていると言われれば似ているのかもしれません。有栖川有栖という作家を褒めたい人が、彼をして日本のエラリー・クイーンと言いたい気持ちはわからなくはないです。でもわたし自身は決して「たしかに有栖川有栖は日本のエラリー・クイーンだ!」とは思いません。だって、スケールが違うもん。


短編集だったせいもあるかもしれないけれど、この短編集を書いた作家の長編に、エラリー・クイーンのスケールをわたしは期待できません。


ちなみに、わたしが一番嫌いなのは「シャイロックの密室」。


奥さんが株に手を出して借金をつくりました。そして性質の悪い高利貸しからお金を借りて、それをまた株で埋めようとしました。マイホームを買うための資金を使い果たしてしまったので、夫にも相談することができませんでした。奥さんは借金を返すお金がなく、この高利貸しに自分の操を渡してしまいます。高利貸しはそれが夫にバレるように謀りました。夫と喧嘩になった奥さんは意気消沈して自殺してしまいます。&、奥さんに自殺されてこちらも意気消沈した旦那さんは車にはねられて死んでしまいます。この短編の犯人は、死んでしまった旦那さんのお兄さんです。


事件は密室殺人。


作者はこの密室のトリックを思いついて、それが嬉しくて、この短編を書いたのだと思います。そして、そのトリックを使いたいがためだけに、ある夫婦を心底不幸にして、殺人の動機を拵えたのです。ミステリー作品のほとんどはそもそもそういうものかもしれないけれど、「シャイロックの密室」は、動機のための不幸が、そのトリックを使うにしては陰惨過ぎるし、その動機からのトリックにしては、こざかしいという印象をわたしは持たざるを得ないのです。


この作品を読んで、有栖川有栖をわたしは信用しない、と心に決めました。