『ノルウェイの森』村上春樹


ひさしぶりです。村上春樹も『ノルウェイの森』も。



最初に読んだときはたしか22歳くらいで、わたしは大学生でした。村上春樹という作家の作品もこれが初めてでした。そのときどんな感想を持ったかはあまり記憶に残っていません。それもそのはずで今懸命にあのときの読後感を掘り返してみると、感想になっていないのです。「なんとなく。」というのが一番しっくりします。なんとなくよかったとか、なんとなくよくなかったのかさえもなく、「なんとなく」なのです。言ってしまえば「うん、わたし、なんとなくノルウェイの森したよ。」というような印象なのです。でも、これはその後に読んだ村上春樹の作品のすべてに共通していることなのですが、ある特定のシーンやセリフやエピソードは、ある程度の明確さを持ったまま、のちのちまでずっと記憶のどこかにひっかかるのです。『ノルウェイの森』も例外ではありません。その特定の何かは天井からぶらさがる電気の紐みたいになっていて、いつでも手の届くところにあって、ちょっと引っ張ってやると、その紐は伸びるばかりで、そこからどこかへずんずん繋がっていくのです。明かりは点かず、ただ知らない道がどんどん延びていくのです。でも電気の紐で、天井からぶら下がっていて、すぐそこにあるから、引っ張らないわけにはいかないのです。そういう紐がいつも村上春樹の作品にはあります。



22歳に読んだときは「なんとなく」で、24歳くらいに読んだときは「なるほど」という感じで、27歳くらいには突撃隊のラジオ体操のシーンばかりを繰り返し読んで笑い転げていました。今、29歳。物語はいつのまにかものすごく近くにありました。引いても引いてもただ伸びていくだけだった紐は、いつのまにかわたしを取り囲んで城を築き上げていました。登場人物のいろんなことが、すごくよくわかるのです。わかるといっても、これはもちろんわたしが「正解を知っている」ということではなくて「わたしにとっての正解がここにある」ということ、とでも言えばいいのでしょうか。ちょっと難しいです。でもともかく、彼らの言動をわたしは理解することができます。それも実感として。1ページ読んだら3ページの感想が書けるくらいです。書かないけど。でも、本当に1ページにつき3ページ分くらいの感想が、今はあります。



ちなみに今までわたしが一番好きなワタナベ君のセリフは「じゃあ歩み寄ろう」でしたが、今回で入れ替わりました。


「頭がおかしくなるくらいやりたいよ」

これ以上にない愛の告白だと思うのは、わたしの頭がいささかイカれているからでしょうか。