『東京物語』奥田英朗


今から何年くらい前かな。4、5年前かな。もらったんです、この本。お店に来たお客様に。その頃は今とは別の、新宿にある飲み屋さんで働いていたんですけど、そのお客様は部下の方2人と飲みに来ていて、たまたまそのお席の担当がわたしだったんです。


「東京の人?」って聞かれたので、「いえ、違います。」「どこ?」「名古屋です。」という流れでした。



その話の終点が、この本のプレゼントでした。「気が向いたら読んでみて」と手渡されて、あまりに突然のことで慌てて「いつお返しすればいいですか」と、今思えば趣のない、生真面目な返事をしたなぁと反省。「いいよ、いいよ、あげるよ。」と。きれいな紺色の革のブックカバーがされていたのですが、そのブックカバーごとくださいました。



先日になって、ようやく気が向きました。



名古屋から上京してきた男の子の、東京物語。わたしと(ほぼ)同じ年齢で東京に出てきた男の子の、30歳を間近に迎えるまでのお話。偶然ですが、わたしは今29歳でもうすぐ30歳になります。だからこの小説の主人公を過去に振り返ることができました。わたしとは、全然、違います。上京してきて、ひとりで暇だからと言って、自分と同じように上京してきた友人を訪問することもなかったし、大学でサークルに入って毎日のように飲んで帰るなんてこともなかったし、夕食は外食で済まそうなんてこれっぽっちも思ってなかったし、有名人の解散コンサートに行き合わせたからと言って途中下車することもなかったし、甘酸っぱい恋の駆け引きなんてのもなかったし、親からのプレッシャーもなかったし、お見合いもさせられなかったし、彼のように仕事でたくさんのお金を稼ぐこともわたしはなかった。


ただ、彼の十年も、わたしの十年も、悪くない、と思えました。


いいよね、30才。まだもうちょっと、がんばります。