『城』カフカ

ずいぶん前に挑戦したときには途中で断念した作品を、ようやく読み通すことができました。読書に心奪われる時間を、もうかなり長いこと過ごせずにいて、だからわたしの文章を読む力は、よほど低下しているのかもしれないと思っていたけれど、それなりに、進歩もしているのかもしれません。読めなかったのが、読めるようになったんだから。「心奪われる時間」とまではいかなかったけれど。

毎日の通勤電車の中で、5分10分だけ、ちびちびと読み進めたせいもあって、物語の流れに身を任せてしまうことはできなかったのですが、読み終えた今、それは失敗だったなと思います。でも、いっきに読み通すつもりで読み始めても、やはりちょっとずつしか進まなかったのでしょう。

何度読んでも(最後まで読んだのは初めてですが)、不思議な不思議な物語です。このつかみどころのなさは、いったいどこから生じているのでしょうか。決してふざけているわけではない、真面目な物語だということはわかる(少なくともそう感じる)のですが、不意に素っ頓狂な言動や様子が現れるので、ファンタジーな要素を疑ったりもしてしまいます。そう、ワクワクしたりドキドキしたりはしない、ということに目をつぶってしまえば、ファンタジーといってもいいような世界なのです。

そんなワクワクドキドキのない、ファンタジーな世界をひととおり最後まで読み終えたとき、肌に残った感触が「現実感」であったことには、ささやかな衝撃を覚えました。読んでいる間にはそんなことこれっぽちも感じなかったのに。有無を言わさぬ、息苦しいほどの現実感。

その正体を確かめるのは、例によって、また今度。