『はてしない物語』ミヒャエル・エンデ 訳:上田真而子/佐藤真理子


ふとまた、読みたくなって。


デブでエックス脚、勉強も運動もダメで級友からもバカにされ、いじめられている少年、バスチアン。彼と、彼が手にした『はてしない物語』の冒険を描いたファンタジー

はてしない物語』は「滅亡の危機にさらされているファンタージェンという世界を救うために、だれか人間がファンタージェンを訪れ、女王さまに新しい名前を差し上げなくてはならない」というおはなし。その物語を読みながら、バスチアンはときに、本の中で自分の声がするのを聞き、自分の姿が映るのを見ます。そして、女王さまに新しい名前をあげるためにバスチアンはファンタージェンに行くのです。

バスチアンがファンタージェンに行くまでの話が上巻で、バスチアンがファンタージェンから戻ってくるまでの話が下巻で語られます。

どちらの物語も本当にすばらしいと思う。本当に豊かな想像力というのは夢や幻を見せるだけでなく現実をとらえるのだと気づかされます。ファンタージェンの奇妙な生き物はみなこの世には存在しないけれど、彼らの口が語ることは、現実世界に生きるわたしたちよりも鋭く、厳かです。優しい者も、恐ろしい者も、強い者も、愚かな者も、みな現実の世界にはいない存在だけれど、それぞれの形や方法で現実の世界をわたしたちに見せてくれます。

バスチアンがファンタージェンに行くまで(バスチアンがまだ『はてしない物語』の読者でいるあいだ)の物語の主人公はアトレーユという勇敢な少年ですが、アトレーユがする冒険(つまり、バスチアンが「読む」冒険)も、バスチアンがファンタージェンに行ってから、バスチアン自身が経験する冒険も、ファンタジーとの戦いではなく、現実世界との戦いであったように思います。


好きな章や場面、セリフなどいくつかありますが、わたしは、バスチアンがアマルガントの人に語って聞かせた『アマルガント図書館の物語』という、バスチアンが即興で作ったお話が、いちばん好きです。たった3ページのこの短い物語を読んだときの胸の高鳴りは、世界でいちばん美しい織物を広げたときの感動に似ていると思う。