『七回死んだ男』西澤保彦
朝の読書習慣2015の7
- 作者: 西澤保彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/10/07
- メディア: 文庫
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タイトル通り、男が七回死ぬのです。
西澤保彦の作品を読むのは、これがふたつめ。前に読んだ『人格転移の殺人』がおもしろかったので、この作品にも期待は高まりました。
『人格転移の殺人』は、「ハンバーガーショップにたまたま居合わせた見ず知らずの男女七人が、地震から身の安全を守ろうとして、店内にあったシェルターのように見える奇妙な物体に入った結果、全員の人格が入れ替わってしまい、しかもそのシェルターらしき装置には、入れ替わってしまった人格を元に戻す機能がなく、さらに、誰の身体に誰の人格が入っているのかを確認しあいながら自分たちの混乱を収束させようとしている中で殺人事件が起きる」というようなお話だったのです。
そう。定められたルールと、設定された環境において、誰が何をどうするのか、そしてどうなるのか、ということを読ませるミステリーだったのですが、本作品もまた同様の魅力を備えていました。
主人公の久太郎(ヒサタロウ)には、生まれながらの特殊な「体質」があります。突然「ある日が9回繰り返される」のです。その「ある日」がいつ訪れるのかは、本人にも予測できません。気がつくと、前の日とまったく同じ日がやってくる、つまり、朝起きて台所におりていくと、家族が昨日とまったく同じ会話をしていて(一語一句違わず)、まったく同じ朝食が食卓に並んでいて、学校に行くと、やはりまったく同じことを同級生が話題にしていて、教師からまったく同じ注意を受ける、のです。彼が「反復落とし穴」と名づけたこの現象は、現在16歳の久太郎に、何度となく起こってきました。それは常に唐突にやってきて、いつ起きるのかはわかりません。前の日と同じことが繰り返されたら「あ、僕は反復落とし穴に落ちた。」と思うわけです。幾度も繰り返されたこの落とし穴について経験上わかったことは、反復されるのは、ある一日の0時から24時までで、反復の回数は9回、ということです。反復していることを認識しているのは、もちろん、久太郎だけ。反復された24時間はすべてリセットされるので、現実に存在するのは最後の9回目の日、ということになります。1回目から8回目までのことは、何が起ころうとすべてリセット。久太郎の記憶には残っても、他の人の記憶には残りません。
そして、この物語の中で久太郎は、その反復落とし穴に、久太郎の祖父が殺された日に落ちてしまうのです。つまり、久太郎の祖父が殺された日が、このあと、8回続くのです。
さて、反復落とし穴に落ちると、まったく同じ日が9回続くと言いましたが、久太郎はそれに抵抗をしめすことができます。なんのことはない、久太郎が「別のこと」をすれば、別の結果を生み出すことができるのです。反復落とし穴の反復力は強固ではありますが「絶対」ではありません。久太郎に対してもその反復を強要する力はないのです。久太郎は久太郎の意志で動くことができます。ということはそうです、久太郎の行動いかんによっては、殺された祖父を、殺させずに済ますことができるのです。
それを久太郎は考えます。どこで、何を、どうすれば、祖父が殺されるのを阻止できるのか。
孤軍奮闘する久太郎の活躍を、みなさんも是非。わたしは大変おもしろく読みました。