『葬送』第二部 平野啓一郎
朝の読書習慣2015の9
- 作者: 平野啓一郎
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1848年、フレデリック・ショパン6年ぶりの演奏会のシーンから、フランス2月革命を経て、翌年、死去するまでの約1,000頁。おそらく多くの読者は第二部のこの演奏会の幕開けに始まる、怒涛の修辞に驚かされるのではないでしょうか。ショパンの音楽を語るための言葉は決してショパン的ではありません。抑制をはずし、フォルテッシモで、高らかに、思いの限りを歌い上げる、そういう文章です。指が鍵盤を叩く刹那に引き裂かれた小さな空気の振動にも神の存在を感じているかのような。微細な現象に大きな感動が与えられています。それくらい大好きなのです、作中人物も、作者も、ショパンのことが。
フランス革命から逃れ、英国へ渡り、演奏旅行を続けるショパン。しかし病魔は一刻も早く彼を連れ去ろうと躍起になっているかのように、いよいよ彼の身体を蝕み始めます。喀血を繰り返し、死期の近いことが誰の目にも明らかになってからのショパンの様子は、ただそこに書いてる文章からだけでも、痛々しくて、可哀想でした。現実の世界でせっかく苦しい状態を終えたのに、物語の中でまた何度も何度も苦しい目に合わされるのは、それはそれでまた可哀想な気もいたしました。後世の人間にまで愛される人の宿命かもしれません。
最初に読んだときはドラクロワの物語のほうが強く印象に残ったのですが、今回はショパンの物語に、より興味を持って読んでいたように思います。サンド夫人とその家族の不和には辟易するけれど、ショパンのことを書こうとして、この家族のひっちゃかめっちゃかを書くことをさぼらずに、むしろ徹底的に調べたのは他でもない作者の「ショパンに対する」熱意ですよね、きっと。
サンド夫人との破局後も、この家族の問題に心を痛め、最後まで娘のソランジュに優しい言葉をかけていたショパンは、やはり彼の作ったその音楽のように、細くやわらかな心の持ち主だったのだろうなと思います。
最近は、ショパンもよく聴くようになりました。