『有限と微小のパン』森博嗣
家庭内読書会「森博嗣完全読破」企画、第11回課題本。
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/11/15
- メディア: 文庫
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犀川・西之園シリーズの最終巻。たどり着いてよかった。シリーズ全10作品の中でいちばんの長編でしたが、さくっと読み終わりました。
『すべてがFになる』で鮮烈なデビューを果した真賀田四季が、この作品の冒頭で再び現れたのには、本作への期待もおのずと高まります。前9作品について、わたしの感想は好評よりもワルクチのほうが多かったことは明らかですが、『すべてがFになる』のFになった瞬間は楽しかったし、なにより真賀田四季をカムバックさせるとなれば、作者はおもしろい作品を書かなければならないはずなのです。森博嗣の作品において真賀田四季とは、そういう人物のはずなのです。『すべてがFになる』からその後8作品を経たのちに、本作で真賀田四季は何をするのか。真賀田四季は何を言うのか。
それは読んでみてください。ここでは別のことを書きます。
西之園萌絵は、長崎県にある巨大テーマパークを訪れ、そこで殺人事件に遭遇します。教会で人が殺されるのですが、萌絵が見つけたとき、倒れていたその男性は、手も足も首もすべてが不自然な角度に曲がっていて、床には血が飛び散り、流れ、広がっていました。教会の中にいた目撃者はドームのガラスが割れて、そこから落ちてきた、と言います。そして、萌絵たちが警察に状況を説明するため現場を離れたわずかな時間に、今度はその死体が消えてしまいます。同じ目撃者が、死体はドームの屋根の割れたガラスのところから出て行った、と証言します。しかも、逆さまになって足から出て行った、と。そしてあとから死体の腕が一本だけ、死体が出て行った場所から落ちてきた、と言うのです。ずいぶん元気な死体だと思わなくもないですが、ともかく、そういう事件が起きます。
これはとても大きな謎ですよね。教会の屋根のガラスを割って人が落ちてくる。そうして死んでしまったはずの死体が、今度は落ちてきた場所から逆さまになって出て行く。そして腕だけ一本、あとから落ちてくる。
天井までは約10メートル。のちに調べたところ屋根の上に血痕はいくつかあったけれど、それだけ。どうやって死体を運び出したのか、犯人がどうやって逃げたのか、まるでわからない。
謎というのは、謎そのものの魅力と、解の魅力と、セットで評価されると思うのですが、上の謎に与えられた解に、わたしはあまり魅力を感じませんでした。今回そう思ってみると、前9作品においても同じことが多かったのかもしれません。わたしは森博嗣が用意した「解」があまり楽しくない。ことが多い。
なんで楽しくないのかは考えてみてもわからないけれど、相性なのでしょう。この作品に関して言うと、わたしには、準備された解に対して、謎が必要以上に大きくされているように感じられます。だからわたしは好きではないのですが、別の人が読めば、この解は謎のすべてをさらりとくぐり抜けていて、爽快なのかもしれません。
だからこれも、別の人が読めば真逆のことを言うのかもしれませんが、わたしには、真賀田四季は「F」のほうが、うんとかっこよかった。
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/12/11
- メディア: 文庫
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シリーズ10作品読み終わりましたので、せっかくの機会に、おさらい。
『すべてがFになる』: 衝撃のデビュー作。
『冷たい密室と博士たち』: 犯行の動機がイマイチ。本部長の言動もイマイチ。伏線のひとつがナイス。
『笑わない数学者』: 三ツ星館に行きたい。
『詩的私的ジャック』: 靴を買わなかったのが運のつき。
『封印再度』: 名前負けだと思う。
『幻惑の死と使途』: マジシャンの生き様はいいとしても、犀川先生の言い様には反発を覚える。
『夏のレプリカ』: 親友は、そんなことではいけないと思う。
『今はもうない』: 推測すぎて、解になってない。
『数奇にして模型』: 大変わくわくしました。
『有限と微小のパン』: シリーズ中、このタイトルがいちばんかっこいいと思う。
わたしが好きなのは、『すべてがFになる』 『笑わない数学者』 『数奇にして模型』 の3作品。みなさんもぜひ。