『バスカヴィル家の犬』コナン・ドイル 訳:延原謙

朝の読書習慣2015の11

バスカヴィル家の犬 (新潮文庫)

バスカヴィル家の犬 (新潮文庫)


シャーロック・ホームズの物語は多くが短編で、長編は4作品しかありません。短編はまだ読んでいないものもあるし、読んだ中で、これがいちばん!という作品もまだありませんが、4つの長編に限って言えば、わたしはこの作品がいちばん好きです。とってもとっても好きです。

意外な人物が犯人だったとか、トリックのアイデアが見事だったとか、それはもちろんミステリー小説の醍醐味ですが、でも、シャーロック・ホームズ物語のいちばんの魅力はどうしたってホームズその人です。『バスカヴィル家の犬』は、わたしにホームズの魅力を存分に味わわせてくれる一冊です。



バスカヴィル家には古くから伝わる恐ろしい伝説があります。その昔、残忍で野蛮な性質のために悪名を轟かせていたバスカヴィル家のある男が、夜の沼沢地で、巨大で獰猛な黒い獣に喉元を食いちぎられて殺されてしまうという話です。それは手記として残されてはいますが、かなり古い記録で、もちろん証拠もなにもありません。ところが、つい最近起きた事件が、この伝説に由来する様子を見せている。バスカヴィル家の当主(温和寛大で評判のよい人物)がその沼沢地で変死体となって見つかるのですが、彼の死体の付近には、巨大な犬の足跡がのこされていたのです。


誰かの思惑がひそんでいるのか。それとも本当に呪われているのか。


あたり一帯が荒涼としたものさびしい土地に聳えているバスカヴィル家の館。ダートムアの暗い沼地に響き渡る世にも恐ろしい獣の咆哮。そこに監獄から逃げ出したという凶悪な犯罪者の影も加わり、、、


ホームズからの依頼で、ひとりバスカヴィルの館で状況報告の任にあたるワトスン君の活躍も実に頼もしく、微笑ましいです。ふたりの信頼関係の見せ方も利いています。そして、どうでもいいようなことですが、夕やけがきれいです。こんなにきれいな夕やけはみたことがない。



この夕やけを見たくて、わたしはたぶんまた、この小説を読むのだと思います。



みなさんもぜひ。