ドイル自薦No.4『最後の事件』


ホームズが滝壺に落ちて死んでしまう(ことになっている)話です。あまりに有名ですし、結末を先に知っていても読書の楽しみは奪われないと思います。奪われたらごめんなさい。宿敵モリアティ教授との最後の戦いです。控えめに言っても、すごくかっこいいです。ホームズ最高、と思います。


これを読んで思うのは(『恐怖の谷』を読んだときにも思いましたが)、数あるシャーロック・ホームズシリーズの中にモリアティ教授との対決を全面に扱った長編がなぜないのかという疑問です。シャーロック・ホームズを読む人なら誰だって読みたいに違いないと思うのですが。隠されていた遺稿としてどこかから出てきたりしませんかね。すごく読みたい。


ホームズの不屈な精神。それを誰よりも敬愛しているが故にやり切れないワトスン君の哀切。ホームズを追いかけて必死に山道を登ったワトスン君が、そこで目にしたものをわたしも見るとき、ワトスン君の悲しみが振動となってわたしにも伝わってきました。30ページにも満たない短い物語に涙できるとは。


シャーロック・ホームズのおもしろさはその事件にあるのではなく、シャーロック・ホームズその人なのだというのがわたしの全作品を通しての感想ですが、『最後の事件』に出てきたホームズのセリフで、その感想はさらに強固なものになりました。

僕の生涯はかならずしも無益ではなかったと公言してよいと思う。僕は今晩にも自分の経歴に終りがきても、自若としてそれをうけいれることができると思う。ロンドンの空気は僕の存在によって清められている。きょうまでに扱ってきた千にあまる事件で、一度だって僕はこの力を悪いほうへ使った覚えはない。(336項)


このセリフで、シャーロック・ホームズというキャラクターがいかに出来上がっていたかが示されているとわたしは感じます。




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