『少年』川端康成


「お前の指を、腕を、舌を、愛着した。僕はお前に恋していた――。」

裏表紙の作品概要がこの調子で始まるので、肉感的な物語を想像しましたけれども、思いのほか清々しかったです。

彼らの抑えがたい衝動を吸収するのに、さほどのエネルギーを要することなく読むことができましたし、少年とはこういう生き物なのだろうなぁと、その精神に触れたことがないにもかかわらず、違和感もありませんでした。作者、川端康成の名文のゆえかもしれません。

中学時代に寄宿舎で共に過ごした「宮本」と美しい少年「清野」との特別な関係。しかし、一線を越えることのなかったのは、
どうしたって肉体の美のないところに私のあこがれはもとめられない」
とあるから、どうやら宮本は清野を抱く気にはならなかったのでしょう。

「お前の指を、腕を、舌を、愛着した」のに、です。

作品の大部分は宮本の原稿や日記などの記録ですが、後半部に清野からの古手紙がひとつひとつ記述されています。これがすごくてですね、、、一文一文をタワシで洗いながら綴ったかのような身の締まる文章で、わたしにはこの一連の手紙がもっとも胸に迫りました。

ところで、裏表紙の紹介文にある「僕はお前に恋していた――。」ですが、本文では「僕はお前を恋していた」とあります。「に」ではなく「を」。
念のために記しておきます。