『私はあなたの瞳の林檎』舞城王太郎

全3編の短編集

3編とも、大人ではない年齢の男女が主人公で、「教室」から線をめいっぱい伸ばしていった広がりで舞台もできていたように思います。

物語は登場人物たちの晴れ晴れとした会話に推進されて、恋心の告白だけでなく、深刻な相談も、暗い心情の吐露も、決意表明も、懇願も、泣き声も、怒りも、河川敷の風みたいに気持ちよかったです。おそらくは本作に限らない、著者特有の技なのかな。

どのセリフも、彼らと同じ年齢のときの自分は耳にした記憶がないし、発したこともなさそうだけれど、でもわたしのいたあの教室や、わたしの歩いたあの通学路や、よく遊びに行ったあの公園や、お弁当を広げていたあの食堂では、彼らと同じ会話が交わされていたのかもしれないな、と、当時の同級生たちの顔を思い浮かべたりしました。

わたしが大人ではない時期を過ごしたのは、もしかしたらずいぶん晴れ晴れとした場所だったのかもしれないな。そう思いました。

2番目に収録されている「ほにゃららサラダ」について。作品を読む前にいいタイトルだなと思ったのですが、読んだらなおタイトルの良さが増したという珍しい体験をしたので、その点、記しておきます。

ところで、表題作の冒頭にある「林檎ちゃんの下着が見えているのをジェスチャーで知らせようとする」シーンを、本作を読んだ弟が大変に気に入ったらしく、わたしに向かってそのジェスチャーを繰り返してくるの、なんてバカなんだろう。