<伊坂幸太郎月間>『ラッシュライフ』vol.2

u-book2009-05-08



読み終わりました。
なるほど。こういう小説もあるのか。ふむ。


大きく分けて、五つのストーリーがあります。まず、泥棒を生業とする「黒澤」のストーリー。リストラの憂き目にあった「豊田」のストーリー。権力者からの庇護を選んだ画家「志奈子」のストーリー。神を求める青年「河原崎」のストーリー。愛人の妻を殺しに行く「京子」のストーリー。


バラバラなところで無関係に始まる五つの物語が「何か」を介することで結びついていきます。「京子」が「河原崎」から奪ったもの(死体)、「河原崎」から「黒澤」に渡ったもの(紙切れ)、「黒澤」が「豊田」にあげたもの(鍵)、「豊田」が「志奈子」に見せたもの(プライスレス)、その繋ぎ目をわたしたち読者は知らされることになる。それらが繋がった結果、真面目なサラリーマン「豊田」にすべてが回ってくる。ああ、悪くない。と思います。


五つの物語から成っているので、物語全体は何かひとつの明確な目標を目指して進んでいくわけではありません。ただそれぞれの人物は、それぞれに明確な目的をもっています。それらはまったく関係がありません。まったく関係のない目的を持った者同士が、その過程で不意に関わることで、相手の計画を妨害したり、狂わせたり、意図せず助けたり、加担したりする。現実の世界でもそういうことは起こっているのかもしれないけれど、物語(現実)の登場人物でいる限り、その繋ぎ目を見ることはできない。だからこういう小説はおもしろいし、それができることが小説の可能性でもある。


この物語には繋ぎ目がたくさん出てきます。中には物語の本筋とはあまり関係ない(と思われる)遊び心のような繋ぎ目もあるのですが、わたしはその中のひとつがとても好きです。読んだ方だけにわかるように書きますね。



「心理カウンセラーになりたいのですが仕事に就くにはどうすれば良いですかね。」(37項)



もう愉快でしかたありません。




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